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昨年の後半に、エンロンが、突然破綻した。エンロンは、世界最大のB2Bマーケットプレースと言われ、奇跡的とも思える急成長を遂げ、世界で注目されてきた企業である。エンロンの破綻は、皆の期待が大きかった分、その影響も大きい。日本の投資信託の多くがエンロンの社債を投資対象としており、日本の投資信託市場も大きな損失を被った。またエンロンは日本の電力自由化の一つのロールモデルとして期待されてきたため、今後の日本の電力自由化の議論にも大きな影響があるだろう。またエンロンの破綻は新たにe-businessに乗り出そうとしていた企業にとって、計画中止の格好の言い訳になるだろう。
エンロンの破綻に伴い、それまで見えていなかった様々問題が明らかになってきた。多額の簿外金融取引、業績の粉飾、破綻直前の法外な社員へのボーナス、ブッシュ政権との不透明な関係等々である。私は、その中で致命的な問題は、エンロンの経営陣が天に唾したことであると考えている。エンロンはネット上での電力の取引のほか、デリバティブ商品、ブロードバンドの帯域、その他千数百の商品をこのビジネスモデルを利用して展開しており、シカゴの商品取引所のような場をネット上で提供することを目的としてきた。ちょっと考えて欲しい。商品取引所の運営の大前提は、その商品取引所の信用である。しかし、エンロンの経営陣は、意図的にこれらの信用を損なうような行為を最後の最後まで続けてきたのである。エンロンの経営陣は経営というものを、一体何と心得てきたのだろうか。
しかしこれらのでたらめの経営の一方で、エンロンは過去数年の間に、まさに驚異的な規模で急成長してきているのである。毎年数兆円の売上を追加してきている例は、過去のビジネスにおいて例はない。数億円や数十億円の売上規模であれば、利用企業が単にいんちきに引っ掛かっただけだと、捨てておけるのだが、数兆円の売上の背景には、数百の顧客企業のエンロンのビジネスモデルの利用があり、エンロンのビジネスモデルは社会的なニーズ、それも確固とした巨大なニーズに立脚していたと、結論付ける他はない。

ここから見えてくるのは、エンロンのビジネスの尋常でない筋の良さと、あまりに稚拙で品性の低い経営とのコントラストである。これだけのはっきりしたコントラストを前にして、小気味良さを感じるほどである。
このエンロンのビジネスモデルの質と経営の質とのコントラストは、過去数年のインターネットに関わった多くの企業が持っていた共通の問題を象徴しているように思える。バブル期には数多くの頭の良い起業家達は寝食を忘れ新しいビジネスモデル創出に没頭し、その実現のための事業計画を練り、その中で選りすぐられたビジネスモデルに対し、巨額の資金が投資された。投資家達の欲の皮は突っ張ってはいるが、彼等は総じて馬鹿ではない。むしろ巨万の富を手に入れるために、彼等の能力を有望な投資対象を見極めるために総動員し、そのビジネスモデルは成功の可能性があると判断したのだ。つまり、今は既に破綻した多くのインターネット関連のビジネスは、社会にその存在理由、ニーズがあったと考えるのが無理のない結論である。 しかし、結果は「インターネットバブルの崩壊」である。
私は、今回のエンロンの破綻から、多くのインターネット関連の事業は事業の目の付け所、つまり何をするか、Whatとしてはすごく良かった。悪かったのは、経営の質、つまりどうやるか、Howであると思い至った。当時は、「First mover advantage」が極めて重要視された、 いやむしろそれがすべてであるというような風潮があった。「First mover advantage」とは、「とにかく他社や誰か他人が始めるまえに、自社が始めることが何にも増して大事である。他社に先行すれば、その他の問題はどうにでもなる。」というように理解されていた。つまり、Whatが重要であり、HowはWhatに比べはるかに重要性が低いと考えられてきた。今思えばちょっと理解できないことかもしれないが、インターネットブームに沸き立つあの時代においては、この考え方が半ば常識であった。
結論的に言うと、「インターネットバブルの崩壊」は、Whatつまり事業の発展の可能性に、Howつまり起業家や企業家の経営の質が追いついておらず、その大きな乖離が破裂した というのが正しい原因ではないかと思う。
翻って、この問題を前向きに捉えれば、これまでインターネット事業を手がけてこなかったがオールドエコノミー等で経営の経験を有するプロの経営者が、この分野へ積極的に関与し、じっくり腰を据えて長期的な視点を堅持し経営にあたることにより、今後大きく発展するポテンシャルがあると理解できる。あちこちに打ち捨てられたビジネスモデルを拾い上げ、これらプロの経営者が丁寧に経営していくだけでも事業拡大の余地がある。言わば「First mover」ではなく、「Last mover」が成功する可能性があるのである。
今、投資家を含め世の中の興味は、インターネットからライフサイエンスやナノテクノロジー等他の分野へシフトしてきている。これら新分野の成長の可能性を否定するものではないが、再度インターネットの可能性を原点に戻って考えてはどうか。私は、昨年のエンロンの破綻でインターネットバブルは概ね潰れたと思う。2002年はインターネットビジネスの仕切り直しの年である。
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