IMAGE マンスリーレポート
TOP

経営全般
高収益企業分析 (1) : キーエンス
概  要: キーエンスは、過去長期に亘り営業利益率40%以上の極めて高い収益率を維持している超高利益率企業である。営業利益率40%は極めて高い数値であり、ほぼ一貫してそのレベルを単年度のみならず継続的に達成している同社は、驚異的という以外に言葉が浮かばない。

同社が、なぜこのような驚異的な業績を実現することができるのかについて、多くの経済雑誌の記事や書籍が分析してきているが、私はその殆どが、それぞれの指摘は正しくはあるが、キーエンスの超高利益率を説明するには不十分で、全体像を捉えていないと感じてきた。今回本稿で、私なりのキーエンスの秘密についての分析に基づき、キーエンスの超高利益率の理由の全体像を議論したいと思う。

筆  者: 浪江 一公
掲載日: 2005/01/24無断転載を禁じます。

キーエンスは、過去長期に亘り営業利益率40%以上の極めて高い収益率を維持している超高利益率企業である。営業利益率40%は極めて高い数値であり、ほぼ一貫してそのレベルを単年度のみならず継続的に達成している同社は、驚異的という以外に言葉が浮かばない。

同社が、なぜこのような驚異的な業績を実現することができるのかについて、多くの経済雑誌の記事や書籍が分析してきているが、私はその殆どが、それぞれの指摘は正しくはあるが、キーエンスの超高利益率を説明するには不十分で、全体像を捉えていないと感じてきた。今回本稿で、私なりのキーエンスの秘密についての分析に基づき、キーエンスの超高利益率の理由の全体像を議論したいと思う。



超高利益率を実現するためのフレームワーク

私は高利益率を実現するためには、キーエンスという個別の事例に限らず、3つの要件を満たす必要があると考えている。まずは、当たり前だが、高い利益率を確保するためには、その商品の提供コストに比べて高い代金を顧客に支払ってもらわなければならない。そのためには超高利益を確保した上での高い価格設定に対し、顧客がその価格と比較し十分な価値を享受していると認めてもらわなければならない。(「大きな相対的顧客価値の創出」)

第二に、顧客がその商品に価格に応じた価値を認識しても、競合企業が同等の商品をより低い価格で提供するならば、当然その顧客は競合企業から購入してしまう。従って、他者が機能、価格もしくは周辺サービスにおいて簡単に実現できない商品でなければならない。(「他社差別化維持の方策の具備」)

第一と第二の要素は必ずセットで具備されなければならないが、それを実現すれば、それだけでも超高利益率実現は可能かもしれない。 しかし、更に利益率を高めるための方策があれば、より良い。第三の要素は第一、第二の要素とは独立しているもので、更に利益率を高めるためのコストを抑えるような仕組みの具備を言う。(「利益確保の仕組みの具備」)

それではこのフレームワークに沿って、キーエンスの超高利益率実現の秘密を議論していきたい。

【 図1 】キーエンスの業績推移(単独)


● 「大きな相対的顧客価値の創出」
キーエンスの「大きな相対的顧客価値の創出」は、その超高利益率の原点でもある。第二、第三の要件は、「差別化」や「コスト低減」が経営の中では常識的な発想となっているように、多くの企業経営者はその必要性について理解され、程度の差こそあれ、その実践に向けて毎日の経営の延長上として取り組まれている。しかし、この第一の要件は、多くの経営者の思考過程の中から欠落しているか、もしくは理解はされていても実践されていない部分である。ここに経営上の関心とエネルギーが向けられているかどうかが、キーエンスの経営とその他の企業のそれとを大きく隔てている部分なのである。

5つの付加価値創出源

キーエンスの顧客価値創出の戦略と仕組みの中には、少なくとも5つの要素が含まれている。

@ 大きな相対的価値を創出し易い事業領域の選択とそこへの集中
キーエンスの主要な事業はFAセンサーである。同社の対外向け事業の説明および社内体制では、幾つかの事業に分けられてはいるものの、その事業の性格上大きな差は見られず、キーエンスの事業はFAという括りで考えて良いと思われる。

FA向けセンサーというのは、顧客の生産プロセスの中に組み込まれるセンサーである。顧客の生産設備にとって、センサーは、その機能、価格、大きさ等からも決して主要な機器ではない。機能においては、顧客の製品になんらかの機能を付加するものではなく、製品の位置やその特徴を判別するという付加的な役を演じる機器・部品と認識されている。また価格においては、一般的に一つ数万円から数十万円の機器であり、生産プロセスの中では他と比較して低い価格の製品である。また、大きさも人間が持ち運びできる程度であり、生産プロセスにおいては目立たない脇役と理解されている。

しかし、実はセンサーは生産設備における一般的なプロセス、即ち、検出→解釈→指示→動作と言う一連のプロセスの中では、品質確保や歩留まり向上には欠かせない機能を担う。その結果、数万円の機器を付加するだけで、数百万円、数千万円のコスト削減が可能となり、顧客は満足する。加えて、センサーは脇役と認識されているので、顧客の感動は更に増すのである。センサーは、それを組み込むだけで、顧客生産設備全体の能力が大きく高まる「投資の梃子の効果」を生み出す商品なのである。

その上、その効果は生産性という極めて定量化がしやすい領域であり、投資効果が明確で、顧客に直接的にアピールする。

この大きな相対的価値を生み出す事業領域は、キーエンスの超高利益創出の極めて重要な大前提であり、この点に関し「実はかなりの数のM&A案件を研究していますよ。ですが、センサーのような付加価値の高い事業がみつからなかったのですよ。・・・もともと値段が高いものに、さらに付加価値をつけて高く売るのは非常に難しい。」(1) と創業者である滝崎会長は述べている。

A 高い「付加価値」が商品企画テーマ選択の絶対条件
キーエンスの滝崎会長は、1982年に20%の営業利益率を確保し、全社の売上高の10%を占めていた自動線材切断機の事業を、「最小の資本と人で最大の付加価値をあげる」という経営理念に合わないとの判断から、売却したという有名な逸話がある。この逸話が語り告がれているように、同社は高い利益率(キーエンス内部では「高付加価値」)を実現することを大変重要視し、世界初や世界最小といったこれまでになかった特徴、付加価値をアピールできるものでなければ、開発への着手が認められないのである。何も「高付加価値」は、キーエンスのみが追求している訳ではない。しかし、「最小の資本と人で最大の付加価値をあげる。」という経営理念が、上で述べた自動線材切断機事業売却の逸話を含め、過去の実際の活動実績に裏打ちされ、補強されていることが、キーエンスと良く見られる経営理念をお題目としてしか掲げられていない企業とのまったく違う点である。

B 顧客の潜在ニーズを掘り起こす仕組み
「付加価値」商品を継続的に生み出す上で最も難しいのは、「付加価値」のある商品企画を生み出す仕組みの設計にある。付加価値の源泉は、顧客の潜在ニーズにあるかもしれないということは、容易に想像が付くが、難しいのは顧客が気付いていない潜在ニーズをどう把握するかである。

それに対し、キーエンスは、「キーエンスの営業担当者は顧客が本当に必要としているものを探し出していくために、顧客のモノづくりの現場に深く入り込んでいきます。顧客に密着することで、顧客自身すら気づいていないような"潜在ニーズ"を企画担当にフィードバックし、・・・・営業担当者は新商品企画のキッカケ作りという重責を担っているわけです。」(APSUL事業部長、小林啓二氏)(2) とあるように、まずは最前線の営業マンに商品企画のネタを探す機能を負わせた。それも、営業マンの最重要機能として。更に、営業マンは、単なる顧客のニーズの御用聞きではなく、顧客のニーズを具体的な商品スペックに翻訳する機能までも負っている。

これら活動を効果的に行うためには、技術的なバックグラウンドが欠かせないため、キーエンスの営業マンは全員技術系の学校を卒業している。また商品知識については滝崎会長が、「我々の営業マンは、本当によく勉強しますよ。商品発売の一ヶ月前くらいから、技術者が講師になり何度も勉強会を開きます。発売後にも「顧客の要望はこうだ」とか、「この説明ではうまく理解してもらえない」とか、顧客の声を持ち帰って、また試行錯誤を繰り返します。」(3) と言っているように、営業マンは、自社商品分野に精通することを求められ、かつ彼らが主体的にそのための活動を行うのである。

なぜ、これだけ営業マンはこのような活動に、積極的なのだろうか。ポイントはどう現場の営業マンの中にモチベーションを醸成するかである。キーエンスの営業マンは、売上高ではなく、ほぼ粗利に近い概念の「成果額」で業績を評価され、給与は業績連動である。(ちなみに平均給与は、平均年齢30.9歳で平均年間給与1,081万円と大変厚い。)つまり営業マンが成果額を確保できる商品があれば有るほど、営業マンにとってはより良い評価が得られ、営業マンは良い評価を求めひたすら顧客の潜在ニーズ掘り起こしのための活動を行うという仕組みがある。

但し、ここで給与ばかりに焦点を当てるのは、必ずしも正しくはない。むしろ現場の人たちは、「こんなの作ったのか、わあ、すごいな。すぐ注文だすわ。こういってお客様が驚いてくれるのが一番の楽しみです。」(角淵NPグループ長)(4) というように、むしろ顧客からの評価を励みに、そして結果として給与が付いてくることを楽しみに、「当社には工場設備機器関係の会社の方がたくさん出入りしておられますが、キーエンスの営業マンは出色の存在ですね。若いのに、自社の商品のことはもちろん、ラインについても知識が豊富で、常に提案型の営業で、どんどん攻めてくる。」(取引先生産技術担当者)(5) という活動を生み出しているのが、現実の姿と思われる。

C 売れる商品企画のできるスーパーエンジニアの存在
しかし、単なる顧客の潜在ニーズ情報のみでは、売れる商品は生まれない。キーエンスには、顧客の潜在ニーズだけでなく、世の動向なども読み「必ず売れる」という確信をもてる商品企画のできる数少ない「スーパーエンジニア」が存在すると言われている。(6) 

ここで問題は、どうすればスーパーエンジニアを生み出すことができるかである。その答えは意外と単純で、「キーエンスの商品企画担当者は、とにかく現場に出向き、現状を調査する基本動作を繰り返す。・・・最低で数十社、多い時には、100社の顧客を訪れて、ラインに入り込んで顧客の隠れた本音を聞いて回る。」「角淵氏には、100社の顧客を回って詳細にニーズをつかんでいる自信があった。『これからあらゆる商品が小型化し、ラインの速度も速くなる。読み取り条件が悪化する中で性能を上げるには、この壁を乗り越えるしかあり得ない。』」(7) とあるように、スーパーエンジニア自体が、徹底して顧客のニーズを探る活動にあるようだ。それも単に顧客の意見を聞いたり、現場を見るだけでなく、顧客ニーズの想定とその現場・顧客への確認という仮説と検証の繰り返しの蓄積の中からスーパーエンジニアの、ある種、動物的な勘が生まれる。

この点について、中坊公平氏が面白いことを言っている。「・・・そういうなぜ? なぜ?を考える癖をつけていると、いったんは忘れるけれど、地下水のように沈殿していく。 こころの中へ浸透しとるんですよ。それがある時、渇泉のようにピュンと噴水してくる。これが勘です。 だから勘、自分の持っている羅針盤というのは、現場の体験に基いて、そしてなぜだと考える癖がついていないと生まれてこない。(8) 

スーパーエンジニアは、全社に数名しかおらず、社内で尊敬を集める存在で、現場の営業マンは将来スーパーエンジニアになることを目標に頑張るそうである。(9) 

D 短納期提供による希少価値実現
同じ商品であっても、顧客のニーズの大きさとその希少性により、顧客の認識する価値は大きく異なる。例えば、砂漠で道に迷った人間にとって、原価がほぼゼロのコップ一杯の水に10万円の価値を見出すことは現実的にもありえる。

キーエンスは注文の翌日に商品を発送するというサービスを行っているが、センサーの故障で生産が止まってしまっている顧客にとって、仮にコストが数千円のセンサーであっても、すぐ手に入るのであれば、数十万円出しても良いと感じるであろう。なぜなら、センサーがなければ数百万円のロスにつながる可能性があるからだ。

この短納期による商品提供が示すように、キーエンスは商品のみならず全ての顧客との接点で、高付加価値化を目指して活動している。

● 他社差別化維持の方策の具備
「他社差別化維持の方策の具備」については、4つの点を議論したい。

E 実現されていない潜在ニーズに基づく商品展開
上のBで述べたようにキーエンスでは、顧客の「潜在ニーズ」を掘り起こすことを大変重要視している。これは、その商品は今までに存在していなかったものであり、顧客にとって解決する手段が無かった課題が、キーエンスの商品により解決されるようになった訳で、顧客にとっては十分な価値がある。しかし、その効果はそれだけではなく、潜在ニーズに顧客が気が付いていないということは、競合他社も気が付いていないということである。価格は、上でも述べたように、顧客がその商品に対し認識する価値と、競合商品の存在・属性の2つの要素により決定されるものだが、キーエンスの商品においては少なくとも初期の段階においては、顕在化していないニーズを対象としているため後者は存在しない訳で、顧客が認識する価値のみに基いた価格で販売することが可能なのである

F そもそも競合先がない
しかしながら、通常は、その商品の顧客ニーズが高くかつ高い利益が期待できるのであれば、早晩他社が追随してくる。しかし、キーエンスの競合先として良く議論に上る企業にオムロンがあるが、同社の販売チャネルから想像するに、同社は異なる商品戦略を採っていて、直接の競合先ではないのである。

オムロンは基本的には代理店経由で事業展開をしている。代理店の利用のメリットには、多数の自社の営業マンを抱えることなく、対象とする市場を広くカバーできることがあるが、反面デメリットとして、顧客に直接販売するのは代理店に雇われた営業マンであり、売る手間を含めコストが掛からない商品を売りたがると同時に、それ故複雑な商品を販売してもらうには、メーカーサイドも商品教育、資料作成等大変な手間が掛かるということがある。その結果、代理店経由で販売に適しているのは、汎用品で大量に売れる製品ということになる。

キーエンスはコンサルティング営業を標榜しており、標準化はしているものの(標準化については後述)、あくまで顧客に商品のみならずコンサルティングを通じて最大の価値を提供することを基本姿勢としており、簡単に売れるという条件で商品企画をしているということはない。そのため、自ずとオムロンが対象としている商品分野とは異なる。

従って、キーエンスの商品が顧客の間で一般的となり、営業マンがいちいちアドバイスをする必要が無くなれば類似の商品を展開するであろうが、そうでない段階ではキーエンスが注力している商品は、オムロンの代理店チャネルには合わない故、(少なくともその段階では)競合とはならない。

G 商品の新陳代謝
それでは、キーエンスの商品が顧客の間で一般的となったらどうなるのだろうか。商品のライフサイクルを考えればそうなる可能性はかなりある。またセンサーはそれこそ千差万別であり、センサー業界には様々なプレーヤーがおり競合先はオムロンだけではない。

それに対しは、キーエンスは商品の3割は過去2年間に開発された商品であり、常に商品の新陳代謝が起こっている。消費財の分野であれば、2年間で商品が何サイクルも回ることは常識だが、センサーのような生産財の分野でこれだけの新商品比率はあまり見られない。競合商品が市場に出てきて、価格競争になり、利益率が低下すれば、上でも触れたように、営業マンは販売のインセンティブは無くなり売らなくなる。その結果生産計画担当は、製造しなくなり、自然とフェードアウトされる。

H 短納期の習慣化
他社に比べた短納期も有力な差別化要因となる。もちろん短納期そのものが他社との差別をもたらすが、それだけではない。キーエンスの設定した納期が、発注担当者の標準になれば、発注担当者はその標準に基き発注作業を進めることが習慣化する。一度習慣化したパターンを変えることには、人間は大きな抵抗がある。なぜなら人間はでいるだけ情報を単純化して処理しよう、つまり2つのパターンではなく1つのパターンで処理しようという本能が働くからである。ワンストップサービスは、まさに人間のこの特性を拠り所として展開されているものである。習慣は極めて重要な差別化要因である。

●「利益確保の仕組みの具備」
キーエンスでは、この他、更なる利益確保を目的として、ごく一般的なコスト削減方法も採られている。しかし、キーエンスの他社の取組みとの違いは、その重要性が強く認識され、その取り組みが徹底しており、かつそこには様々工夫があることである。「利益確保の仕組みの具備」に関しては、4つの点を議論したい。

I 高利益確保を目的とした徹底した標準化
キーエンスにとって、上で述べた高付加価値化が高利益率確保のための販売価格増の戦略とすれば、標準化は利益率確保のための戦略である。キーエンスは標準化にはこだわるが、キーエンスの標準化の目的は、他の企業で見られる一般的な標準化とは異なる。

通常標準化は、販売価格を下げ多く売るため、もしくは来るべき価格競争に備えるためのコスト低減の手段として取り組まれる。標準化によるコスト低減分はそのまま、低価格という形で顧客に還元されるか、競合企業との競合の中に吸い取られてしまう。価格設定をコスト+αで設定する習慣が常識化している企業では、本当はより高く売れるのに自らその利益を放棄し、低い価格設定をしてしまうということもある。

一方、キーエンスの標準化は、利益率確保の手段であり、商品の販売増や競合企業にコストで勝つためのものではない。(その要素が全くないとまでは言いきれないが。)顧客に高い価値を提供し続け、かつ競合企業との価格競争力に巻き込まれなければ、販売価格は高いレベルで維持できるが、その上で商品を標準化しておけば、数量が出ることによりコストは加速度的に低減でき、そのコスト削減分はそのまま利益としてキーエンスが享受できるのである。

J 製造コスト低減の仕組みとしてのファブレス
世の中にファブレス企業は多い。しかし、その多くが自社に製造ノウハウを持たないために、コスト低減や品質の維持を全てファブレス企業に依存しなければならないという弱点を抱える。キーエンスはファブレス故に、高い利益率を確保できているという議論があるが、それは本質を突いていない。キーエンスの巧さは、自社内にも生産のノウハウを蓄積しつつ、外注企業を効果的に利用する(最適外注の選定の自由度の確保、競争によるコスト低減等)という点にある。

同社は生産子会社にクレポ(クイックレスポンスから命名された)があるが、生産の1割はこの会社が担う。その他9割は、それぞれの企業の強みに応じ外注先を選定し、また競争原理を巧く活用しながら、最適な生産を行っている。また、この生産子会社ではトヨタの生産方式の技術・ノウハウを持つといわれており(10) 、ここで蓄積したノウハウは、協力会社への生産の細部におよび改善にも活用されている。

K 在庫削減の工夫
キーエンスは、上でも述べたように、翌日配送を顧客提供価値拡大・他社差別化の手段としている。それでは相当数に上る商品アイテムを翌日配送する体制を構築するためには、どのような工夫があるのだろうか。この点については、キーエンスはまったく外部に情報を公開しておらず、想像をするしか方法はないのだが、一つには日々の営業マンの活動の中から丹念に情報を拾い、生産計画・在庫計画に反映しているようである。また、商品の企画段階で、商品アイテム数を極力減らすために、広いニーズに対応できるスペックにすることや、商品の品切れに他の商品で対応できるようスペックを重複させる(11) というような工夫をしているようである。

L 主要コストの人件費抑制策
上で述べたように、平均年齢は、30.9歳と若く、今後の従業員の高齢化が進む訳だが、高齢化に応じ従業員のモチベーションを維持する為にも、給与も拡大するようにしなければならない。既にコストの中で人件費が占める割合は高い。(生産の9割を外注しているにも関わらず、売上高に占める人件費の割合は14.5%)なぜなら、キーエンスの従業員の平均給与は、1,081万円と極めて高く、またキーエンスのきめ細かい顧客対応には当然のこと人件費が掛かる。

この人件費の問題を放置すれば、従業員の高齢化が進み、早晩超高収益の確保は困難になる。これに対し、キーエンスが意図的かどうかは確認できていないが、人材の新陳代謝の人件費抑制の仕組みが有効に働いている。キーエンスは上でも述べたが、極めて厳しい業績評価を行っており、当然業績の悪い社員は自身の評価を知り、会社にいずらくなる。一方、厳しい競争を勝ち残りキーエンスに採用された事実、またキーエンスの経営上の様々な工夫を実体験を通じ体得した人材は、他社にとっては魅力的であり、他社への転職もしやすい環境が結果的に作られている。その結果、人材は外部へ流出する。(12) 

一方、人材の補充の面では、新卒者を含め求職者の間ではキーエンスの人気は大変高く、若くて優秀な人材の調達には、特に問題は見られない。

以上、キーエンスの超高利益率の理由を13上げ、その全体像を議論してきたが、キーエンスの戦略、仕組みには様々な工夫があり、多くの企業にとって多いに参考になると思う。

しかし、同社の超高利益率実現の背景には、突き詰めると、日々全ての経営陣・社員が考え、工夫をするという文化・風土があるように思う。生産を外部に依存するキーエンスは、なんの目に見える資産はない。あるのは会社という組織のみである。多くの企業がキーエンスの仕組みのみを真似しようとして、できていないのは、この日々考え工夫をする組織という土台を作ることができないからと思われる。

次回はファナックを取り上げ、議論したい。

出典:
(1)、(3)、(4)、(7)      :日経ビジネス、2003年10月27日号
(2)、(5)          :「会社の歩き方、キーエンス」、ダイヤモンド社
(6)、(9)、(10)、(11)、(12) :筆者の神戸大学大学院経営学研究科加登豊教授へのインタビュー
(8)             :日経ベンチャー、2003年8月1日号



本内容についてのご相談、本内容に関する問い合せ、ご意見等ございましたら、
Eメール、もしくは電話(03-5420-3503:担当小峯)にてご連絡ください。
弊社担当者が迅速に対応いたします。